国際便が飛ぶ空港などで、たまに見かける「祈祷室」のマーク。
気になったことありませんか。
あの祈祷室、実は最近来日が増えているイスラム教の人々、「ムスリム」のために設置されているものです。
日本では仏教をはじめ神道、キリスト教などの宗教がありますが、あまり馴染みがないのがイスラム教。
なんとなく「宗教上食べれないものがある」とか「女性が顔を隠さないといけない」のような少し厳しいイメージがありますよね。
イスラム教といえば世界の3大宗教の一つであり、今急激にその人口を伸ばしている宗教です。
実際に、以前までの外国人観光客は中国や韓国などの東アジアや,西洋、アメリカといったところがほとんどでしたが、ムスリムの観光客もここ10年で10倍ほどになっているんだとか。
もちろんコロナにより今の観光客は減っていますが、このコロナ後にはサービス業界に大きなムスリム需要がくるでしょう。
今回はあまり知らないムスリムの習慣や、飲食店として行えるサービスについてみていきたいと思います。
ムスリムってどんな人たち?
ムスリムとはイスラム教を信仰している人々で、主に中東地域のマレーシアやインドネシアなどに多く暮らしています。
日本では身近に全く関係ないか、というとそうでもありません。
日本にも、10万人~20万人ほどのムスリムがいると言われています。
街でもたまに顔をヒジャブ、スカーフのようなもので覆った女性を見かけますよね。
宗教といえば、その宗教独特の習慣があります。
幼い頃、祖父母の家に行くとおばあちゃんが仏壇の前で念仏を唱えていた、なんて人も多いのではないでしょうか。
ムスリムの人々もイスラム教の教えに則った習慣を持っています。
食べるものや飲むもの、着る服から始まり、毎日の決まった祈りなど日本人には少し厳しく見えるかもしれませんが、イスラム教の人々にとっては誇りを持って行っている彼らのポリシーです。
【ムスリムの人々の習慣】
・食べていいものと食べてはいけないものが明確に決められている。
・アルコールを飲んではいけない。
・1日に5回、決めれられた時間に礼拝をする。
これらの習慣は旅行先でも変えることはありません。
何年か前に「おもてなし」という言葉がはやりましたが、まさにムスリムの観光客を呼び込もうとするときにはその習慣に合わせた気遣いが必要になってくるんですね。
ムスリム需要に応える!「ムスリム・フレンドリー」とは?
「ムスリム・フレンドリー」という言葉を聞いたことはありますか。
これは、先ほどの項目で伝えたようなムスリムの信仰や生活習慣に理解を示し、ムスリムが観光しやすい環境を整える取り組みで2013年ごろから始まりました。
例えば、冒頭の空港の祈祷室などもその一環です。
ムスリムが日本を安心して旅行するために必要になるのは、毎日祈祷会を捧げるための祈祷室や、ムスリムに配慮した食事を提供してくれるレストラン等様々。
また、そういった施設やサービスがあるだけでなく、情報がしっかりと表示されているというのも安心材料になりますよね。
このムスリム・フレンドリーですが、やはり観光産業の中では先駆けて既に取り組んでいるところも多数。
空港の中の飲食店や、お土産屋さん、またはホテルなどでもそういったサービスが既に行われています。
ですが、飲食店全体を見たときにはムスリムに配慮したサービスを行っているところはまだまだ少数です。
つまり、今のうちにそういった配慮ができるサービスに取り組んでおくと、他店との差別化にも取り組めるかもしれません。
ムスリムが「食べられるもの」と「食べられないもの」
食べられるもの「ハラールフード」
ムスリムの人が食べられるものを「ハラールフード」といいます。
まずは具体的に一覧で見ていきましょう。
【ハラールフード】
・牛肉・鶏肉・羊肉など(ハラールミートに限る)
・卵や乳製品
・魚介類
・穀物・野菜・果物・キノコ
かなり大雑把にいえば、豚肉とアルコール以外のものという感じでしょうか。
ハラールミートとはイスラム教の教えに則ったエサで育てられ、屠殺されている肉のこと。
その規定の範囲の牛や鶏由来のものであれば、乳製品や卵なども食べて大丈夫です。
これなら一部注意すれば、和食を楽しむこともできそうですよね。
食べられないもの「ハラームフード」
ハラールフードと逆で食べられないものを意味する「ハラームフード」
先ほど豚肉とアルコールはだめだと書きましたが、もう少し詳しく見ていきましょう。
【ハラームフード】
・豚肉と豚肉に由来する食品
・犬の肉
・アルコールとアルコールに由来する食品
・血液
。遺伝子組み換え食品
豚肉に由来する食品、つまりハム・ベーコンなどの加工肉やラード、豚のエキスが入ったブイヨンや、ゼラチンなどの豚肉由来のものは全てNG。
また、お菓子などに使われているショートニングも豚由来のものなので同じく食べることができません。
たとえば、天ぷらなどはハラールフードの素材であれば食べられますが、とんかつを揚げた油で揚げてしまうと食べられなくなってしまいます。
ムスリムの人々の中でもどのぐらい厳密にこだわるかというのは人それぞれのようですが、豚肉に関しては忌み嫌われているので要注意。
アルコールに関しても、通常飲料用として飲むビールやワイン、焼酎などのお酒はもちろんですが、アルコール添加の調味料に関しても要注意。
醤油やみりん、ポン酢、みそ、マヨネーズなどもアルコールが添加されているものは食べられません。
和食に多く使われる調味料ですが、使用する際はアルコール無添加のものを使うようにしましょう。
また、野菜は基本食べられますが、遺伝子組み換えのものは「ハラームフード」になってしまいます。
日本では遺伝子組み換えは行っていませんので国産のものであれば大丈夫そうですね。
飲食店ができる取り組みとは?
ハラール認証
イスラムの教えに則っていて、禁止されている物を使っていないという証明になる「ハラール認証」
認証団体がハラールであるか検査して、問題なければ認証されたというマークをつけられるのですが、食料品以外にも化粧品や医薬品などにも使われています。
信頼できる機関から「イスラム教的に問題ないよ。」と約束されているわけですからから、ムスリムにとってはかなり安心なマークですよね。
飲食店も「ハラール認証」を受けることが可能です。
しかし、これがかなり細かい基準をクリアしなければなりません。
【ハラール認証を受けるための基準】
・アルコールの提供をしていない。
・食材はハラールフードを使用している。
・調理の工程でハラール以外のものが混じらない。
・調理人や管理者にムスリムがいる。
・店内内装や従業員の服装で性的なものはNG
上記のような基準を満たしていれば認証機関から認証を受けることができます。
いかがでしょうか。
認証を受けるためには費用も掛かりますし、ハラールフード以外のものを扱っている場合は調理場所を分ける必要があるなど、コストがかかってしまいますので少し厳しいというお店も多いかもしれませんね。
もちろん、ハラールフードは日本人向けにも健康的なメニューです。
ムスリム需要が多いお店であれば、この認証をとることで更に安心感を提供できるようになるでしょう。
ムスリム・フレンドリーメニューの提供
「ハラール認証まではちょっと…。」
そんなお店は先程の項で説明したムスリム・フレンドリーに取り組んでみてはいかがでしょうか。
ムスリム・フレンドリーはどこかの機関から認証を受けるものではありませんが、自主的にムスリムに配慮したサービスを行っているというアピールをすることができます。
例えば、ポークフリーなメニューを作る。
さしみの醤油にアルコール無添加のものを準備しておく。
遺伝子組み換えではない旨を表記しておく。
重要なのは、こういったサービスを分かりやすいように可視化することです。
お店のメニューに書いておくことは勿論ですが、ホームページなどでもどういった配慮やサービスを行っているのか明記しておくことでムスリムの人も安心して来店することができます。
言葉では伝わらないケースもありますから、ピクトグラムなども使用するとより親切ですね。
ムスリム・フレンドリーのメニュー以外の配慮とは?
「ハラールフード」のことを多く取り上げてきましたが、食べ物以外でも飲食店のホスピタリティとしてできる配慮はたくさんあります。
ムスリムの女性が家族以外の男性に肌や顔を見せないよう、ショールのようなもので顔を覆っているのは有名ですよね。
ムスリムの人たちにとって家族以外の男女への意識はかなり厳格なものがあります。
例えば店内のBGMですが、女性の歌謡曲などは苦手なようです。
席の配置についても家族以外の男女が同じ席で料理を食べることはしないので、家族だけの席にするか男女分けた席にするといった配慮も必要でしょう。
「女性には女性の従業員がつく」なども訪れやすい環境のお店として認識されます。
こういったのは知らなければサービスとして気配りすることもできませんから、まずは知識として知ることが大切ですね。
まとめ
今増えてきつつあるムスリム需要と、対応できるサービスについてみてきました。
コストがかかってしまい、取り組みへのハードルが高いものもあれば比較的始めやすい取り組みもあったかと思います。
コロナ禍の中で外国人旅行客は激減し、今現在だけを見るとあまり大きな売り上げは期待できないかもしれません。
ですが、ワクチン接種が世界的に進む中で必ずこれから外国人観光客を街で見かける頻度は高くなっていくでしょう。
今の内に準備をしておき、アピールをしておけば、他店との差異化にも成功するのではないでしょうか。
まずは知ること・理解することから始め、取り組みやすい所から是非挑戦してみて下さい。